[]15分で読める漱石の「自己本位」の考え(夏目漱石「私の個人主義」)





高校の国語の先生に「モップ」というあだ名の先生が居ました。





あだ名の通り髪の毛がもじゃもじゃの先生でした。東大仏文科を出たインテリで、口癖が「おまぁえ〜たちは、馬鹿ぁだから〜」でした。 生徒には当然嫌われていましたが、僕はこの先生が好きだった。





この先生がやたらと生徒に読ませていたのが夏目漱石でした。「私の個人主義も夏休みの課題か何かで読まされたものだと思います。





何十年かぶりに、ふと思い出すことがあって、青空文庫のものを読んでみました。

(なんと、いまは青空文庫無料で読めるんですね!)



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漱石がロンドンで心を病んだことはよく知られていますが、講演の中で漱石は「自己本位」という概念が彼を苦悩から救ったと言います。





「鵜呑と言ってもよし、また機械的の知恵と言ってもよし、とうていわが所有物とも肉ともいわれない、よそよそしいものを我物顔にしゃべって歩くのです。しかるに時代が時代だから、またみんながそれを誉めるのです」



「けれどもいくら人に誉められたって、元々人の借着をして威張っているのだから、内心は不安です」


(中略)

「私はこの自己本位という言葉を自分の手に握ってから大変強くなりました。彼ら何者ぞやという気概が出ました。今まで茫然と自失していた私に、ここに立って、この道からこう行かなければならないと指図をしてくれたものは実にこの自己本位の四字なのであります」






「私の個人主義」は大正3年に学習院の講堂でなされた講演ですが、それから100年近く経った今でも人は漱石と同じ悩みを抱えています。漱石の話は、今を生きる我々に鋭い問いを突き付けてきます。





すなわち、「あなたは本当に自己を拠り所とし、考え・話し・行動しているのか?」





この悩みは大人になればなるほど深まっていきます。生まれてこのかた、社会の価値観に基づいて人生の選択をすることに慣れきってしまっているため、自分が何を求めるのかわからなくなっているのだと思います。



漱石は自らの力で「自己本位」という概念をつかみ取りましたが、その認識の変化をサポートするのがコーチンのひとつの役割なんだろうと思います。



僕は、正直ライフ・コーチングに苦手意識を持っていました。(代わりにビジネス・コーチングは最初からしっくりきていた) 人の価値観が確かにガラリと変わる瞬間に立ち会う恐ろしさ、、というか怪しさがしっくりこなかったのだと思います。



ただ、漱石の「わたしの個人主義」を読んで思うのは、人間の発達段階で「自己本位」の感覚をつかむことはどうしても必要だということです。そして、それは恐ろしいことでも怪しいことでもない。





自力で「自己本位」をつかむ人も大勢いますが、そうで無い人にちょっとした手助けの手を差し伸べること。コーチがやっていることはそんなことなんだと思います。







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