[]「よかれ」の思い込みが会社をダメにする (岸良 裕司 2009)

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経営管理の部門のマネージャーの机の上に置いてあった本で、この著者の主張を参考にしているらしいですよ、という話を聞いたので、さっそくAmazonで買って読んでみました。



なるほど、と思う部分と、はて、と首をかしげる部分がありまして、色々と考えました。



なるほどね、と思う部分はボトルネックに関する話。ある改善が部分最適になっていると、改善が改善にならないことがありますね、という指摘は面白いですよね。「渋滞学」の話や「滞留」を見つけてつぶしていく考え方、「トヨタ生産方式」に関して、古典を読み解いてみようかなという気になりました。







はて?と思うのは、商品の価格戦略に関する基本的な考え方が現場感とちょっとずれているように思うところです。





例えば、ここで「過剰在庫になると値下げをせざるを得ないので価格下落に繋がる」という話を聞いたとしたら、「確かにその通りだ」と思いますでしょうか?



ま、普通は「確かにその通りだ」と思うでしょうね。けど、ここで「確かに」と思ったとしたら、一度足を止めて、そこに落とし穴が無いかどうか熟考してみたほうが良いと思うのです。





別に在庫管理をないがしろにして良いと言っているわけではありません。在庫はキャッシュフローを悪化させますし、売り損じたら処分費がかかるし、持っているだけでは倉庫代等や利息がかかるばかりで、一円も生まないし、過剰在庫は良いことはありません。



が、「過剰在庫になると値下げをせざるを得ないので価格下落に繋がる」という命題は、絶対化してはいけないと思うのです。なぜなら、価格下落は過剰在庫にならなくても起こるからです。







論理学的に考えてみましょう。 (「論理的に」では無くて「論理学的に」であることに注意)



(命題1) 過剰在庫になる → 価格下落する



という命題が真だとすると、その対偶も真になるはずなので、



(命題2) 価格下落しない → 過剰在庫でない



という命題も真になるはずです。ここで注目すべきは、「価格下落をしない」ということは、過剰在庫にならないための条件の一つに過ぎないということです。(矢印の向きが逆になると違った見え方がしませんか? 僕は、だから論理学が大事だと思うんですね)





もっと簡単に、「営業的に」言えば、価格下落はするんです、どのみち。



理由は様々で、自社が在庫管理をしっかりやっても、他社が在庫管理に失敗すれば、値段はつられて下げざるを得ないし、エクスペリエンスカーブ的に製造単価が下がることも考えられます。



だから、在庫管理をしっかりやって価格下落から逃れよう、という考え方は間違っています。そうではなくて、価格が下がろうが下がりまいが、とにかく価格を自主的に下げていく姿勢が必要だと思うのです。



今の時代は、自爆的に価格を下げても、それでもビジネスが回るためにはどうすれば良いのか、に関して、最も良いアイデアと実行力を持ったプレーヤーが生き残る世界になっています。嘘だと思うなら、店に行ってサムソンやアップルの値段を見てください。



日本の製造業はここを勘違いしてはいけません。価格設定が持つ戦略上の意味を日本の製造業はえてして勘違いしています。



限界利益をどうやって上げていくか、という経営管理的なアプローチの悪い面が出ているように思えて仕方ありません。



限界利益は個別商品の限界利益×数量、で、数量は予測値でしかないのに対して、個別商品の限界利益は単価を上げれば、現実として改善する数値のため、単価の方をいじりたくなるのは人間の自然な気持ちだと思います。



これは管理的な考え方で、別に非難するつもりはありませんが、そうではない哲学でビジネスを組むことが必要な場合もあって、このバランスをどう取るかに関して勘違いをしてはいけません。