[]激励か?三行半か?(立石泰則「さよなら!僕らのソニー」)

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この著者は、基本的にソニーに好意的なジャーナリストです。そういう人に「さよなら!僕らのソニー」と言われてしまうことに対して、今ソニーにいる人たちはどう感じていて、どう反論しようと思っているのでしょうか。



本の内容自体は確かにちょっと変な議論だな、と思う点もあります。



例えば、モノづくりの現場出身ではないCEOが企業を統括しているのが駄目、という主張には簡単には同意できません。ソニーと同じような、国を代表する大企業で破綻の淵にあったIBMのターンアラウンドを主導したのルイス・ガースナーですが、彼は新卒→マッキンゼーナビスコのキャリアで、IT業界の現場のことは(たぶん)ほとんど知りません。



これくらい大きくて複雑な企業のトップに期待されることは、組織の規律を明確にしてブレさせないことであったり、組織人事の肝で誤った人を登用しないことであったり、大きな判断で間違わないことであったりするわけです。確かに、優れたマネジメントがその現場の出身であればそれに越したことはないのでしょうが、それは絶対に必要な条件ではありません。



イノベーションの定義を商品性能に寄って考えすぎているのも疑問です。Appleが良い例ですが、最近のイノベーションは、製品イノベーションもさることながら、BMIで優れているところが多く、消費者目線でみても、iTunesなどのビジネスモデルの組み方に感銘を受けるわけです。



「1,000億円の利益は営業利益に計上するのではなく、研究投資に回すべきだった」など、「?」が頭に浮かぶ発言もありました。(全額、単年度の費用計上できるR&Dって、具体的に何をイメージしているのか?「今年は利益が出そうだけど、税金で取られるくらいなら使ってしまえー」という乱暴な話に聞こえる)



と、なんか変な議論だな、と思う部分もあるものの、かつては日本を代表するグローバル企業であったソニーが、かつての輝きをまったく失ってしまっているのは確かです。ソニーがターンアラウンドできるのかどうかは、日本という国がどう変われるのかを見る上での試金石のように思います。



ちょっと前に、大前健一が「さらばアメリカ」という本を書いていました。この題名、大前さん的には「さらばアメリカ(今のおかしなアメリカが、昔の輝いていた頃のアメリカに戻るまで)」というつもりで書いたと言っていました。立石さんも「今のソニーが、昔の輝きを取り戻すまで」という期待を込めていると考えますが、ソニーは、この先のターンアラウンドを果たして欲しいと思います。