[]法人営業「力」を鍛える

法人営業「力」を鍛える





サッカーで喩えると、営業ってどこのポジションになるのでしょうか?



普通に考えれば、最終的に売上を上げる(得点を上げる)ポジションなので、フォワードということになるでしょう。



ただし、多分他の会社も大半は同じだと思うのですが、アドリアーノやアンリやシェフチェンコなど、サッカーで言うところのトップのFWが得ている地位と名誉を、営業スタッフが得ているか、と言われると大きな疑問符がつきます。会社の中で花形とされるのは、企画とか経管といった、後ろの方で戦略を練る部門であって、営業部門はどちらかというと、無いと困るけど憧れの部門というわけではない、というのが実際だと思います。





この本は、営業組織に対してコンサルティングを行う際のフレームワークをまとめた本です。まず、最もコンサルが入りにくいと思われる「営業」領域に対して議論を特化したということに拍手を送りたいと思います。



得点感覚の優れたFWを擁することによって、チームの勝率が大きく上がるように、営業のあり方を洗練されることによって、会社の利益は大きく向上します。また、営業は「売上」という数字で外からも中からも、下からも上からも、丸見えで評価をされ、マネージメントから他部門から、はたまた営業部門に居る本人達でさえ、「営業の仕組みがおかしい。もっと優れた商売のやり方があるはずだ」と常日頃思っています。よって、営業の仕組みを改善する方策を提示することには非常に大きな意味があります。





なのですが、この本、もう1つ突き抜け切れなかったかな、というのが正直な感想です。まず、使用している大半の考え型をマーケティングから引用していることに問題があります。



ここで使われているマーケティングのロジックは、商売の「組み立て方」に関しては有益な知見をもたらしますが、組み立てた商売をどうやって「実行に落とし込む」か、に関してはあまり有益な知見をもたらしません。



どちらかというと、FWの理論ではなくてOHの理論なんだと思います、ほとんどのマーケティングフレームワークって。だから、その両方が出来る、ロナウジーニョとかトッティは、もう本当にスーパースターですが、アドリアーノにOHの理論を教えても、So What?の世界だと思います。



同様に、ちゃんとした営業管理やマネジメントに、この本の話をしても、"I know & So what ?"と言われる可能性が高いと思います。



この本で指摘されている、営業の「ロジック欠乏症」(1.視野狭窄 2.KKD依存 3.オキャクキング錯覚 4.GNN依存 5.ローンウルフ性癖 6.価値自律失調)ですが、すべてagree!! 法人営業の暗雲現象(顧客重要度×訪問回数、取引高×値引率、など本来相関すべき2項目間が無相関であるため、プロットすると雲のようなチャートになってしまうこと)にもagree!!



問題の所在は確かだし、正しいのです。



では、それをどのように解決するのか? 本書が言うようにターゲティングを行い、顧客を深く理解し、正しい戦略と、有効なセールス活動の横展開を図ることが正解なワケです。しかし、立案した戦略を実行に落とし込もうとした、まさにその瞬間に別の問題が立ちはだかります。



コトラーは昔、行為変革、行動変革、信念変革、価値変革、とマーケティングキャンペーンのターゲットを分類し、ターゲットが上位の概念になればなるほど、そのキャンペーンが成功する確率は減少すると指摘しました。(というか、ほとんど成功しない!!)



営業組織を変える、という行為は、まさに組織の価値や信念との戦いであり、正しい「商売の仕組み」をこしらえる労力は、「その仕組みを浸透させる」労力の10%にも満たないというのが現実だと思います。



それをどうするのか、ということに関し、多くの人がヒントを欲しがっているわけであり、それが読者側のニーズなわけです。



残念ながら、そうしたインナーマーケティングに関しては、本書はユニークな知見を提供するものではないので、ちゃんとしたマネジメントは、この本の話を聞いてもSo What ?になると思われます。





まあ、そうは言っても、多くの営業組織で、FWである営業が戦略を持っていないという事実や、OH(企画、経営管理マーケティングなど)が効果的な戦略を持ってFWに球を出していないという事実は、それはそれとしてあって、戦略を立てる際にはこの本は充分役に立つとは思います。



別の機会に、また別作として、そういう本を書いてくれることを期待します。