[]僕と未来とブエノスアイレス (2004)

僕と未来とブエノスアイレス

<あらすじ>

南米、アルゼンチンのブエノスアイレスユダヤ系の青年アリエルは、その下町の小さなガレリア(アーケード商店街)で、母のランジェリーショップを手伝っている。アリエルの父は、彼が生まれてすぐにイスラエルに戦争に行ったまま戻ってこないが、毎月、国際電話をかけてくる。何となく将来に不安を感じるアリエルは、ポーランド国籍のパスポートを取ろうとするが、本当に外国に行きたいのか自分でもわからない。そんな中、突然父が帰ってきた…。





ポーランド人になりたい」、ってところで思わず噴き出してしまった(失礼なっ!)、わけですが、ちょっと考えるとこの辺のアイデンティティのテーマって言うのは結構面白いわけです。



主人公のアリエルのアイデンティティは、結構特異な環境の組み合わせで出来ています。まず「アルゼンチン人である」ということ。アルゼンチンっていうと、世界経済的にはびみょ〜な国で、1988年のハイパーインフレでの富裕層の没落、ペソの暴落と2001年の対外債務返済不履行宣言、など「いけてない」状態なわけです。



さらに、アリエルはユダヤ移民の孫で、これまたアイデンティティを複雑にしています。かなり直近(っていうかおばあちゃん)がポーランド人、つまりヨーロッパ人だったので、自分のいけてるルーツをヨーロッパに探そうとします。



最終的には、アリエルはポーランド国籍を取ることをやめて、ブエノスアイレスの商店街に留まることを選択しますが(20年来家族のもとを離れていた父親も突然帰ってくる)、自分の軸足を結局、今までと同じところに置いた所に、アイデンティティの持ち方のひとつの完成形を感じるわけです。



家族・コミュニティをよりどころとして自分を定義する、という形。翻って自分のアイデンティティを考えると、家族・コミュニティから遊離してしまっているのが実際のところなので、おそらくこういう選択はしない。



幸福度合いと経済的な豊かさが比例しないというのは有名な話ですが(日本は幸福度で世界90位なんだとか。ブータンが9位くらい。どういう測定かよくわかりませんが)、こういうところに要因があるんだろうと思いますね。







2004年ベルリン国際映画祭

 □審査員特別賞・銀熊賞:ダニエル・ブルマン

 □銀熊賞(男優賞):ダニエル・エンドレール