[]バス174 (2002)

バス174

リオデジャネイロの路線バス174号線をハイジャックした男の背景を、豊富なインタビューと洞察でなぞっていくドキュメンタリー。



シティ・オブ・ゴッドを凌ぐ、、、」というのはちょっと的外れな気がしますが、かなり鋭い指摘が含まれる優秀作品だと思います。



中心テーマは「存在が無視される」貧困層、特にストリートチルドレンの問題。路線バスをハイジャックした男の願いは、自分の社会的存在を認知されることだったとされます。こういう話を聞くとどうしても思い出すのがマズロー欲求段階説。「生存→安全→帰属→尊重→自己実現」という5つの段階のうち、犯人が要求したのは第4段階の「尊重の欲求(周囲から認められる)」ということになります。



貧困格差の問題を考える際に、どうしても問題になるのが、この第4段階の壁だと思います。変な話、予算があれば第2段階までは物理的に解決可能でしょう。(安定した経済環境を整える、、となると問題は別になりますが) 帰属欲求も、人間である以上、組織は勝手に作られる可能性が高い。



しかし、今のように、東西の時代(=思想の対立)が終わって南北の時代(=貧富の対立)となり、「金を稼いだやつが偉い」という一軸での社会評価が優勢になると、どうしても社会的認知を受けられる人の数が限られてきます。



そんな中で、個人個人の社会的認知欲求をすべて満たすのは非常に難しいでしょう。



思えば、この手の「成金→破滅」ストーリーは、アメリカ周辺国で受け入れられやすいように思います。アル・パチーノの「スカーフェイス」もそうだったし、「シティ・オブ・ゴッド」も同様のストーリー展開です。



ベネズエラチャベスをはじめ、南米のかなりの数の国が「反アメリカ」的な立場を取り始めていますが、金・金・金のアメリカ的思想がやはりどこかで破綻しかけているのかもしれませんね。