[] 青年へのメッセージ、大人への戒め(「対岸の彼女」(角田 光代))

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送別会(今となっては、幻の送別会になってしまったが。。)で、みわっちが「読んだ方がイイよ!」とお勧めしていた本です。iPhoneがあるとその場でAmazonで買えるのが良いですね。せっかくお勧めしてもらって忘却のかなたに行ってしまうことが少なくなりました。



さて、この物語は、30代の二人の女性の友情と破綻とそれからを綴っていきます。30代の今と10代の昔を行ったり来たりしながら物語が展開していきます。時代を行き来して女性がテーマを語っていくスタイルは"Hours(=めぐりあう時間達)"っぽいのですが、こちらは二つの時代の行き来なので、作者の根本的な問いを比較的容易に感じ取ることが出来ます。



すなわち、「あなたにとって大切なことは何か?」という問いです。



学生時代、友達のグループから外れることがこの世の終わりのように思えるのはごくごく普通の感覚だと思うのですが、登場人物の一人のナナコは、「私にとって大切なことはそこにはひとつも無い」と言い切って自由奔放に生活を送ります。



このナナコに影響を受けた葵は、自分が重要だと思うこと、自分の心に少しでも引っかかるものを求めて起業をし、掃除ビジネスに手を出し、小夜子を採用します。このナナコの根源の問い、すなわち「なにがあなたにとって大切なことは何か?」はアメーバのように分裂し、人の心に入っていきますが、肝心の「ナナコにとって重要なことは何か」は作品中ではあまり明らかにされずに終わります。



ここがポイントなんだと思います。



すなわち、「あなたにとって大切なことは何か?」という答えは実は一義的に決まっていて、それは「自分にとって何が大切なのかを考え続けること」が大切なことなのだ、ということなんだと思います。



具体的な大切なことは、小夜子にとっては掃除事業でのささやかな成功であり、葵にとっては、それでも自分のビジネスに固執することなのだと思いますが、それよりも重要なことは、自分にとって何が大切なのかを選び取ろうとする、その態度を諦めない、ということなのだとこの作品は語りかけてきます。



そういう意味で、30代の女性を主人公にしていますが、これは青年期の人々に対するメッセージであり、その志を危うく忘れそうになる大人への戒めなのだと感じました。