[]詩的で哲学的な名作 (「ツリーオブライフ」を観た)

no title




カンヌでパルムドールを取ったマリック・テレンス監督の作品。



この映画は評価が分かれそうです。



予告編を観ると「父と子の葛藤」を描いたファミリードラマのように見えますが、実際にはこの映画にはストーリー性がほとんど有りません。確かに、父と子の葛藤は描かれ、父親役のブラット・ピットも母親役のジェシカ・チャステインも素晴らしいのですが、これは映画の中心テーマでは無く、映像の時間としても半分も無いのでないかと思います。



代わりに映画の中心を占めるのは、生命の誕生と神秘を象徴するような映像と音楽です。公開直後とあって、映画館自体は割と混んでいましたが、あまりのストーリー性の無さにかなり戸惑って居る観客が多かったように思います。



僕にはこの映画はアメリカンインディアンの長老のブラック・エルクのビジョンのように見えました。



「私はその山々の中で一番高い峰に立ち、私の目の下には全世界の輪が広がっていた。・・・中略・・・そして私は私の民の聖なる輪が、数多くの輪の中の一つの輪であること、そしてそれら数多(あまた)の輪が、全て一つの輪をなしていること、この一つの輪は光のように、また星の光のように広く、その輪の中心には一本の頑丈な木が育って、花を咲かせ、その木かげに、一人の母と一人の父から生まれた、ありとあらゆるものたちが住んでいるのを見た。これら全ては尊いものだった」



映画の中で何度と無く問われる「何故、人は死ぬのか」という問い。



この問いを発したのはアメリカの保守的な家庭に育った少年で、家族のバックグラウンドはカトリックですが、マリック・テレンスが示した答えは上記のブラック・エルク的でした。またある意味仏教的なのかもしれません。



個は全体であり、全体は個である、というような感覚。その中心に「生命の樹」があり、ありとあらゆるものたちが住んでいる聖なる状態。それが、「神のみもと」と表現されるところで、よって「なぜ死ぬのか」という問いはそもそも問いとして成立しないのだ、という感覚。僕には、そういう哲学的な思考を映像として表現したのが、この映画なのだと思いました。



途中から涙が止まらなくなりました。



誰にでも楽しめる映画では無いとは思いますが、是非お勧めをしたいと思います。



個人的には今年観た映画の中ではかなり心に刺さった映画です。