[]社会的上昇欲求があった時代(Tatsumi Yoshihiro "Midnight Fishermen")
山本さんにもらった、劇画作家のたつみさんの未公開作品集
この人の作品には、僕らが知らない日本の「貧しかった時代」が書かれています。それはAlwaysに出てくるような「貧しいけど明日に希望が持てた時代」ではなくて、もっと絶望的で暗い雰囲気をもった時代として書かれています。芥川龍之介の蜘蛛の糸のような、小林多喜二の蟹工船のような。
中国の映画監督のチャン・イーモウの作品に「活きる」という作品があります。
文革の前後、次々と不幸が家族に降りかかるんですが、それでもなお「明日は今日よりは良い日になる」という確信を感じさせる作品です。(作品自体はとんでもなく良くて、僕は本当に好きな映画の一つ)
けれどおそらく、今の中国で起こっていることは、ここでたつみさんが書いているような社会状況なんじゃないかと思います。所得格差が広がり、底辺で社会上昇のきっかけがつかめず鬱屈する層が存在する。ややもすると忘れてしまうこの視点。たつみさんの本を読むたびに、こういう視点があるんだ、ということがリアリティをもって思い出させられます。
本を読むことは異なる視点を獲得することでもありますが、そういう意味でこの人の作品は面白いと思います。