日経アソシエ 1・16

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問題0701:始めたことを継続するにはどうすればよいのか?



年末の「整理する技術」特集はためになりましたが、この「始める技術」のほうはためになる部分一切無いね。



というより、始めるのに技術は要らんだろ、別に。始めれば良いんですよ。



問題は「継続する」のがとても難しいこと。(当然、特集の内容には「どうすれば継続できるのか?」という話も入ってますけどね)



「継続する」のがとても難しい理由を構造的に解き明かさない限り、この全人類的・歴史的課題を解決することは出来ないでしょう。



そもそもなぜ人は「何かをやろう」と決心するのか。ここで、単純なコスト・ベネフィットモデルを前提に考えて見ましょう。つまり、人は「何かをすることによる利益(=ベネフィット)」と「何かをすることによる労力(=コスト)」を比較して、「ベネフィット>コスト」であれば何かをする、というモデルを想定するわけです。



すると「継続するのを止める」という判断が起こるのは、この「ベネフィット>コスト(労力を上回る利益が期待できる)」という状況が破綻したためだ、とまず推測することが出来ます。「それをやっても、思ったほど良いことが無いと気づいた」とか、「思った以上にコストがかかることが判明した」とか、そういう状況です。



もし、継続することが難しい理由が上記の場合は、問題は「事前のコスト・ベネフィット分析が甘かった」ということになります。それをやるとどれくらい良いことが起こるのか、自分の中のぶれない価値観に照らし合わせて位置づけが出来ていなかった、とか、どれくらい大変なことなのか事前のリサーチと計算が足りなかった、とか、そういう問題になるわけです。



また、そもそも、人の「表面的な」価値観はころころと変わります。(ころころ変わるものを価値観と呼ぶのはおかしいので、スタイル、、くらいのものですが)自分が何を欲しているのか、根底にぶれない軸が無いと、どれくらいのベネフィットがあるのかを計算することが出来ず、結果ものごとは長続きしません。



もちろん、この「コスト・ベネフィット」モデルはあまりにもナイーブ過ぎるので、継続を妨げるそれ以外の要因を説明することは出来ませんが、人が何かを始める理由の根幹なので、もっとも説明力が高い考え方だと思います。



さて、「コスト・ベネフィット」モデルを前提に考えた場合、継続するための面白いコツが1つあります。人間がコストとベネフィットを厳密に計算して合理的な行動をするわけではないことは、カーネマン&トゥベルスキーがよくよく示していますが、その非合理性をモデル化したプロスペクト・セオリーによれば、人間は「プラスに対しても、マイナスに対しても、参照点からの実際の価値が離れれば離れるほど、その価値に対して感じる心理的価値が低減する」ことが知られています。



例えば、よく言われるのが、行動ファイナンスへの応用で、10,000円で買った株(ここが参照点)が10円値上がりして10,010円になったときの喜びは、12,000円まで上がった後に12,010円に10円値上がりした喜びよりも大きいということです。



もう1つ、プロスペクト・セオリーで言われることで「人間は参照点からプラスに対する価値よりもマイナスに対する価値に強く反応する」ということがあります。「100円貰った」ときの100円と「100円無くした」時の100円は、同じ100円でも価値が変わります。(無くした100円の方が痛い)



この2つの知見(?参照点付近の価値に対する心理的価値は大きくなる、?プラスの価値よりもマイナスの価値に大きく反応する)を組み合わせると、「継続する」ための面白いコツが1つ出てきます。それは、「毎日参照点を置きなおし、継続しなかったときにマイナスが起こることを想起する」ということです。



例えば、語学学習。新年に気分一新して語学の勉強をスタートする人は多いと思いますが、経験的に(笑)99%の試みは挫折をします。最初の数ヶ月は楽しくて良いのですが、だんだんとやる気がなくなってくる。プロスペクト・理論に基づけば、これは新年のゼロスタート(=参照点)から遠ざかるにつれ、心理的な効用が逓減していっていることが原因と考えられます。まったく話せない状態から、ちょっと話せるようになる場合の心理的効用と、ちょっと話せる状態からもっと話せる状態になる場合の心理的効用では、前者の方がはるかに価値があると感じるのです。



なので、この状態を改善するためには、参照点を毎日引きなおす、ということが必要になります。「昨日と今日」「今日と明日」「明日と明後日」と、比べる対象を1日前に設定することによって、もっとも心理的効用値を感じやすくなるというわけです。



また、プラスの効用(前より話せるようになった)と同時に、マイナスの効用(前より出来なくなった)を意識することも有効です。前述の通り、人は参照点からマイナスになることに強い抵抗感を感じます。継続させる有効な方法は「今日やらないと○○という良くないことが起こる」という考え方をすることだと言えます。(もっとも、やりすぎて脅迫観念に襲われては元も子もありませんが)





回答:プロスペクト・セオリーを意識した目標管理をしましょう。