新訂「孫子」

孫子

問題:0705 孫子の兵法はなぜマーケティングに役立つのか?



インド市場担当のマーケターAさん、発展市場での圧倒的な数量シェアを確保することが、その後の市場の拡大の恩恵を預かるための重要な要素だ、という定説に従い、本社に戦略的な価格設定(=値下げ)を求めています。



さて、Aさんの要求に従って、初期の利益を削ってでも数量シェアを獲得することは正しいのでしょうか?



完全な間違いではないでしょう。急速にパイが拡大する局面においては、大きな数量シェアを抑えた企業が、そのパイの拡大の最大の恩恵を得ることができます。しかし、ここで問題となるのは、競合も恐らく同じことを考えて行動をしてくるということです。



孫子の兵法は、13編からなる中国最古の兵書ですが、戦争での戦略のあり方を説く書物というよりは、人生のあらゆる局面における心構えを説いた書物として読むことができます。 もちろん、企業経営の局面においても肝に銘じておくべき思索に見ていて居ます。





「彼れをしり己れを知れば、百戦して殆うからず」という孫子の一節はいろいろなところで引用されますが、全体的に孫子の考え方は、戦いを始める前の準備の重要性に重きが置かれています。(「勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む」)



この、「敵を知る」という準備を行わずに勝負に出るケースが現代でも非常に多いように思います。結果、戦略的な価格設定(=値下げ)を行っても、すぐに競合に追従され、結局なんの効果も出ず売上だけが落ちてしまうという失敗例は枚挙に暇がありません。



また、孫子の中にはこんな言葉も出てきます。





「凡そ戦いは、正を以て合い、奇を以て勝つ。」(勢篇第五)





これは、おおよそ戦闘というものは、定石どおりの正法で−不敗の地に立って−敵と会戦し、状況の変化に適応した奇法でうち勝つのである、という意味で、やはり相手の裏をかくための情報収集能力が重要という示唆が導き出されます。



ある商品やある地域の担当者というのは、売上責任のプレッシャーに押しつぶされそうになるのですが、そういう時こそ冷静に自分と相手の状況を分析する必要があります。



そんな基本の心構えを孫子は教えてくれるのです。そんなに難しい書物ではありませんが、さすがに歴史を生き抜いてきた書物で、示唆に富みます。





答え:マーケットでの自分と競合との関係を冷静に分析するよう戒めてくれるから。