[]「金閣寺」 (三島由紀夫)

金閣寺




まったくもって嫌になりますよ。



三島由紀夫がこの小説を書いたの、僕とほとんど同じ歳の時ですよ。多種多様な表現と文章で、人間の内面を描写しているのですが、一体脳味噌の何処にこんなに多様な知識が蓄積されているんでしょうか。同じ30年という時間を経てきた人間とは思えません。



天才、ほんと。





1950年に起きた金閣放火事件を題材に、「金閣を焼かねばならない」と決意する青年僧の心の内面を描いていきます。





幼時から父は、私によく、金閣のことを語った





と、唐突に金閣の話から始まり、





しかし今でもついぞ思いもしなかったこの考えは、生まれると同時に、忽ち力を増し、巨きさを増した。むしろ私がそれに包まれた。その想念とは、こうであった。「金閣を焼かなければならぬ」





と決心し、放火に至ります。



実際の事件では犯人の青年僧は睡眠薬を服用し、切腹自殺を図ったそうですが、三島の話のエンディングでは、この青年僧は生きることを誓います。



小説の中で、青年にとって金閣は美の象徴としてあることが書かれていますが、三島は事件を、どうしても手に届かない存在としての美の象徴を壊すことによって、かえって魂が救われる、という話に転換したようです。



形而上学的なものへの不信というのでしょうか、なにやらそういうテーマのように見えます。最近の社会ではあまり見かけないテーマですね。死滅してしまったかもしれない。だからやっぱり現代の話では無いな、という感覚を持ちます。



今の時代、あるのはまず経済の話。そして経済の話。最後に経済の話。



お金の論理が社会全体を覆っていて、ありとあらゆるものがお金に換算されているようです。頭の良い人達は、皆、必死になって「どうやって儲ける仕組みを作るのか」を考える社会になっていて、しかもそれが結構楽しいので、それ以外の人間の根本的な問いを考える余裕がなくなっているように思います。



良いことなのか悪いことなのか。



新鮮な思考を手に入れられる半世紀前の名著だと思います。



すばらしい。