[]「レトリックと人生」("Metaphors We Live By"G・レイコフ、M・ジョンソン 1986)

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ジョージ・レイコフのメタファーに関する主要著作です。大学院時代の自分に最も大きな影響を与えた本の一冊で、このレイコフの話に着想を得て「非営利組織のブランド構築 メタフォリカル・ブランディングの展開」という本を2006年に書くことになりました。



実は、このメタファー研究は、学部時代にはちょっと取り扱いが難しいところがありました。おそらく、チョムスキー生成文法を研究されている方々が多かった環境のためだと思うのですが、例えば「サピア・ウォーフ仮説」(言語は社会や文化によって影響を受ける)のような文化における差異をあまりにも強調しすぎたりすると、回りの先輩研究者からたしなめられる、というような「空気」がありました。



大学院でキャンパスを変えたところ、突然、非常に自由な研究風土になったため、初めて触れることになったのがこのレイコフの一連の研究で、非常に大きな衝撃を受けたことを昨日のことのように覚えています。



レイコフは、客観主義・主観主義の間の経験主義という立場を取ります。メタファーというものは、その社会の全体の認識の仕方(→ゲシュタルト)のエッセンスのようなもので、人々の物事の解釈にはこのメタファーが非常に大きな影響を与えている、というのがレイコフの基本的な主張です。



僕は、政策立案側への示唆(ビジネスにしろ公共政策にしろ)としてはこの立場が最も重要だと思うのです。



政策立案者は、他とは違うもの、すなわち「差異」を作り出すことで価値を出しました。マーケティングにしろ、公共政策にしろ、「今までとは違う」「他とは違う」ということを訴求することが競争に勝つ源泉です。



そもそも「差異」を語ることが仕事の人たちにとって、世界には唯一普遍の真理は一つしかないとする客観主義はいくらなんでも乱暴に見えるし、かといってすべてのことを相対的に語る傾向のある主観主義では話の一貫性が担保できないので都合が悪いのです。



あるマーケットに出て行って、そこに住む人々を理解し、その理解をベースにして施策を打つ際に、経験主義的な立場と特にメタファーを解した市場理解は非常に強力です。理解した後に「どのような打ち手を打つか」という立案部分でも大きな示唆を与えてくれることがこの立場の大きな強みです。



世界が多極化する中で、おそらく「地域に合わせた戦略」が政策立案側にとっての長期的なテーマになっていくと思います。この分野の重要性はこれからさらに大きくなっていくのでは、そんなことを思っています。